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2022年12月3日(土)ディスカッション:「本年まとめ&2023年テーマ決め」


12月のアート・ラボは前回に引き続き、各メンバーが取り組んできた今年度の個人テーマの発表と、来年度の全体テーマを検討しました。    

【2022年度個人テーマ】(当日発表順)
1.1950年代弁証法による芸術作品 (Sasさん)

戦争の記憶がまだ生々しく、安保をはじめとして様々な社会問題に直面していた1950年代、文芸評論家の花田清輝が提唱した「弁証法」(2つの対立する、あるいは一見無関係なモノやコトを統合してより高い次元で成立させる概念)は、新たなリアリズムを切り開く手法として当時の前衛芸術家の指針となりました。
その代表的事例として、シュルレアリスム的な「内面」とドキュメンタリー的な「外観」を往還しつつ統合した奈良原一高、「ルポルタージュ絵画」で深刻な社会問題に挑み、労働者や大衆の目線で表現し続けた池田龍雄、対立する2つの要素を統合するというよりそのまま共存させる「対極主義」を唱え、近代的合理性と原始的非合理性という2つの視点から様々な芸術実践に取り組んだ岡本太郎を取り上げ、具体的な作品を提示しながらその痕跡を分析しました。

 さらに現代アートにも目を向け、敢えて人間の体形に合わない純粋幾何学的造形を取り込んだ森永邦彦の服飾デザイン、ジョセフ・アンド・アニ・アルバース・ファンデーションでの経験を活かし絵画にテキスタイル的表現を実現させた高畠依子にも言及しながら、時代を超えてアーティストにインスピレーションを与える弁証法的思考の意義を考察しました。
2.感染症とアート〜「COVID−19」と非接続するアート〜(Hayさん)

20世紀初頭に社会と人間の精神を決定的かつ不可逆的に変革し、様々な前衛芸術運動のきっかけとなったスペイン風邪。そこには、感染症という「不可視なもの」への関心と不安がありました。100年後の現在はどうでしょう。

世界にはびこったポピュリズムは社会に決定的な分断を生み、あらゆる表現行為を抑圧していますが、その背景には常に「接続」を求める公共の論理があります。 こうした状況を踏まえ、小崎哲哉(『現代アートを殺さないために ソフトな恐怖政治と表現の自由』河出書房2020)はパンデミックのさなか、2020年5月に現実空間とインターネット上という2つのプラットフォームで開催された「ダーク・アンデパンダン展」に注目します。
その主題は、他者との接続から脱した「孤独」こそが完全な自由をもたらし、そのことが真理を追求する態度に繋がるというものです。著者はコロナ禍を逆手に取ったこの画期的な展覧会に触れつつ、状況に応じて「接続」と「非接続」を使い分けることが「表現の自由に基づく現代アートを守るひとつの手法である」としています。

3.国際芸術祭について(Araさん)  

はじめに、今年実際に訪問した「越後妻有 大地の芸術祭2022」「国際芸術祭 あいち2022」「瀬戸内国際芸術祭2022(夏、秋)」「岡山芸術交流2022」の様子を、イリヤ&エミリア・カバコフ、塩田千春、奈良美智、草間彌生、杉本博司、青木野枝、片山真理など参加アーティストの作品画像を供覧しながら紹介したうえで、2022年に国内で開催された32の芸術祭をエリア別で一覧にして提示し、2000年の越後妻有アートトリエンナーレに始まり、わずか20数年で今日のような活況を呈するに至った、国内の国際芸術祭の歴史を振り返りました。

さらに、この間に首長の交代や地方財政の都合によって終了を余儀なくされた神戸ビエンナーレ、水と土の芸術祭、茨城県北芸術祭などの事例に言及し、芸術祭の成功と失敗を分ける5つの要因として「アーティストの質」「作品の質」「既存の観光資源」「首長の理解」「地域住民の協力」が示されました。最後に11月に海外まで足を運んだ「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」における各国展示の様子も紹介されました。


 4.社会とアート〜大西若人の視点(Oouさん)

美術、建築を中心に幅広い評論活動を行っている朝日新聞編集委員・大西若人の論考の中から、東日本大震災と福島第一原発事故に伴う「整地」や帰還困難地域の「避難指示」をテーマとして、2015年3月11日に福島県双葉町で始まり現在まで継続的に「開催中」の展覧会「DON’T FOLLOW THE WIND」と、1955年以来ドイツ・カッセルを拠点に5年ごとに脈々と開催され、今年15回目を迎えた「ドクメンタ」を中心に、その視点が紹介されました。
風景が変わり、人も入れ替わって忘却が進むなか、東日本大震災をどう伝えてゆくのか…大西は、その答えの一つがアートの持つ「想像力を喚起する力」だと言います。
被災した人々の思いをすくい上げ、可視化してゆくことこそアートの可能性なのです。
また、国際芸術祭では、@地域に根ざしたテーマでA日常性を感じさせる素材をB「手仕事」で組み合わせる手法で制作された作品が多いことや、「ドクメンタ」と越後妻有や瀬戸内など日本の芸術祭との比較から、開催国の文化的背景による差異を指摘しています。  

5.リサーチによるアート(Susさん)  

初期の事例として、肖像写真を職業や属性により分類し社会を網羅的に捉えようとしたアウグスト・ゼンダーの『時代の顔』(1929)があげられますが、社会的・批判的視点をもつ「リサーチによるアート」概念の起点は、ヴァルター・ベンヤミン「生産者としての<作家>」(1934)です。
彼は作家が社会の中でどのような立場にいるか、コミットが必要であるとしています。その後、スラム住居の不動産取引の実態を写真作品とした(フォト・コンセプチュアリズム)《シャポルスキー他マンハッタン不動産ホールディングス》(1971)を制作したハンス・ハーケのように疎外されている人々への民族誌的アプローチを試みる作家があらわれ、美術史家ハル・フォスターが「民族誌家としてのアーティスト」(1996)を著します。こうした展開はResearch-Based Artsと呼ぶべきものですが、2018年にパトリシア・レビーが『Handbook of Arts-Based Research』のなかで、アートを調査の文脈に組み込むArts-Based Researchの概念を提示しました。  

以上の流れを概説した上で、
@アーティストがリサーチに対してどのような立場をとっているか
Aリサーチの結果のみの提示か、プロセスも含めた提示かBテキストと視覚表現をどう組み合わせて表現しているかという鑑賞者としての3つの視点が示されました。
6.視覚障害者のアート鑑賞の現状と見えて来たもの(Takさん)  

本テーマにかかわる法規は、1970年の障害者基本法と2016年の障害者差別基本法がありますが、その内容を見ると「マジョリティーがマイノリティーに対して何をするか」「サポートをする側/される側」という括りであり、社会の中で障害者は依然として差別される「弱者」として認識されていると言わざるを得ません。
そうした状況下にあって、視覚障害者のアート鑑賞にいち早く(1984〜)取り組んだのは、ギャラリーTOMの「手でみるギャラリー」です。
「世界をさわる」コーナーが設置されている国立民族学博物館では研究者であり自らも当事者の広瀬浩二郎氏が「触覚の復権」を掲げ、「ユニバーサル・ミュージアム」の研究と実践を行っています。そのほか、晴眼者と視覚障害者が一緒に対話しながらで鑑賞するプログラムとしては、エイブル・アート・ジャパンのMAR(Museum Approach & Releasing)、全盲の白鳥建二氏をナビゲーターとした水戸芸術館の「セッション!」、林健太氏が主宰する「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」、森美術館のラーニングプログラム「耳でみるアート」などがあります。

実際にプログラムに参加してみて、触覚の奥深さと同時に晴眼者が如何に視覚にとらわれていたか、そもそも見えないものを感じ取るのが鑑賞であり、視覚障害者と鑑賞する際に重要なのは「伝える」ことではなく「共にみる」スタンスである…など、様々な気づきがありました。  

7.アートとエコロジー(Suyさん)  

ルネサンスの人文主義は自然を客体視する近代的自然観をもたらし、近現代を席捲する「人間中心主義」の萌芽となりました。これを急速に推し進めたのが18世紀後半の産業革命です。その後のたゆまぬ技術革新によって人間は便利で快適な都市生活を享受する一方、拡大する貧富の差や社会の階層化、国家や民族の対立によるたび重なる戦禍、産業の過剰な発展による自然破壊といった大きな代償を払ってきました。
こうした人類史において、アートをめぐるエコロジカルな視点がどのように成立し進展してきたのでしょうか。

まず、19世紀のヘンリー・ソロー、1960年代のレイチェル・カーソン、1980年代のヨーゼフ・ボイスという3人のキーパーソンを軸に20世紀までの芸術実践が概説されました。そのうえで「人新生」という概念のもと、エコロジーの議論が一層活性化してきた2000年代以降、現在に至る多様な活動について「人間と自然の相互浸透」「視覚を通じたエコロジー思考」「人間と動植物の関係」「ソーシャリー・エンゲージド・アート」「芸術祭とエコロジー」「原発事故とアート」の6類型に分けて様々な国内外の具体的事例が示されました。


 8.アボリジナルアートとオーストラリア社会(Yasさん)  

アボリジナルアートは、オーストラリア先住民が動植物や水、岩など自然界の精霊と、夢や暗示を通して交信する「ドリーミング」と呼ばれる精神的な概念を表現したものです。ドットペインティングや動物の骨や内臓を描くレントゲン画法等により、精霊のさまざまな形が多彩な色彩で描かれます。 18世紀後半から始まった植民地化によって先住民族の生活や文化が破壊され、今も貧困や差別の問題が根深く残るオーストラリア。

アボリジナルアートは長い間、美術品というより工芸品や土産物、あるいは文化的資料として扱われてきましたが、1973年、労働党政権下で「アボリジニ・アート委員会」が設立され、経済的自立や教育政策と連動して美術工芸制作をバックアップするようになると作家の層も厚くなり、エミリー・ウングレーやロバート・トーマスなど海外で認知されるアーティストも現れ、1989年にはポンピドゥーセンターで「大地の魔術師展」が開催されるなど、次第にファインアートとしての位置づけがなされるようになりました。最後にYasさんのコレクション《無言で行う女性の儀式》を供覧しながら、描かれているモチーフなど「ドリーミング」の実例が示されました。  
9.アウトサイダー・アートについて(Tadさん)  

中間報告でも触れたように、自分たちの生活自体を社会環境として考え社会に積極的にコミットするChim↑Pomの活動は、「つくること」がそのまま「生きること」に繋がる障害者の制作態度に通ずると考え、日本のアウトサイダー・アートを取り上げました。
 1930年代後半に式場隆三郎が初めて障害者アートを見いだし、50年代に巷の人気者となった山下清を世に送り出しましたが、当時の美術界には全く認められず、その後1993年に世田谷美術館で「パラレルヴィジョン−20世紀美術とアウトサイダー・アート」が開催されるまで、わが国でアウトサイダー・アートが顧みられることはありませんでした。長い間「福祉」の文脈で語られる傾向があった日本のアウトサイダー・アートはむしろ、2008年にローザンヌのアール・ブリュット・コレクションで開催された「ジャポン」展をはじめとして、海外から逆輸入される形で評価されてきたという歴史があります。
しかし今や、「社会包摂」「多文化共生」といった今日的テーマを背景に、草間彌生は別格としても、金崎将司、升山和明、茶園大輝、斎藤裕一、山野将志など多くの若手のアーティストが輩出し、美術館の企画展や各地の芸術祭に参加するようになりました。  

10.カンディンスキーに学ぶ社会環境への順応性(Gokさん)  

19世紀後半から20世紀前半にかけての激動の時代にあって自分を貫き続けた生き方に興味を覚え、カンディンスキーの生涯にフォーカスしました。  
モンドリアンやマレーヴィチとともに抽象絵画理論の創始者として知られているカンディンスキーは、1866年モスクワの裕福な商人の息子として生まれました。モスクワ大学で法律と政治経済を学んだ後、1896年にミュンヘンで絵画を学び1909年に新ミュンヘン美術家協会会長となるも、1911年にはフランツ・マルクとともに脱退して「青騎士」を結成します。この間、1910年に最初の抽象画を手掛け、代表作の『インプレッション』『コンポジション』シリーズが生まれました。
その後第一次世界大戦が勃発するとロシアに戻り、革命後には祖国の美術行政や教育において要職を務めますが、1922年パウル・クレーとともにドイツ・ヴァイマールのバウハウスに参加し抽象画を理論的に体系づけて教えることに情熱を傾けます。しかしその後ナチスの台頭によってフランスに亡命し、そのまま1944年に亡くなりました。  

彼は常に自分の言葉で発信しながら、多方面の人と交流することによって情報を収集し、自分がどのように動けば良いか、次の一手を考えていました。「激変する社会環境の中にあって適応しつつも流されず、自分の考えをもって表現する」カンディンスキー作品の圧倒的なポテンシャルや理論構築は、そうした確固たる信念にささえられていたのでしょう。
11.将来のアートが環境の変化によってどうなるのか?(Sanさん)  

近年の情報技術の進展は目覚ましく、今やAIを活用したDX推進は企業の喫緊の課題となっています。ではアートを取り巻く環境はどうなるのでしょう。5年後、10〜20年後の未来という軸で考察してみました。

<5年後の未来>  
絵画、彫刻、写真などのオールドメディアに加え、画像生成AIなどを活用したCGやVR等のニューメディアの重要性が高まってくると考えられます。また、NFTの普及は、インスタレーション作品の保有価値の確立や、セカンダリーにおける作品転売時の収益確保、コアなコレクターを対象としたファンコミュニティの組織化など、アートマーケットに対するアーティストの参入機会の増加をもたらすでしょう。
<10〜20年後の未来>  
宇宙という新たなフィールドが想定されるようになり、私たちは多くの時間をバーチャルな空間で過ごすようになるかもしれません。AIによる画像がより一般化するなかで、作品制作コンセプトの明確化、ストーリーの独創性が一層求められるようになるでしょう。また、「アートする」ことがより身近になって、参加・体験の要素が高まって来ることも想像されます。  

以上のような未来像から、これからのアーティストにはAIを活用するスキルや、コミュニケーション能力、宇宙やバイオロジーなど科学分野も視野に入れたより広範な発想力のほか、アートマーケットを見据えたプロデュース力やコミュニティーマネジメントスキルが求められるようになるかもしれません。  
【2023年度のテーマ検討】
来年度のテーマを検討しました。前回のラボで出た意見も踏まえひきつづきフリーに意見を出し合い、「個々の作家に関する深掘り」「日本美術」「生活に根ざしたアート〜デザイン」「自然とアート」「戦争とアート」「サイトスペシフィック」「版画」など多くの興味深い方向性が示され、全員で協議した結果、2023年度のテーマを 「アーティストを深掘りする」(サイトスペシフィックアートをメインに) とすることになりました。
                                                 (YS記)

先生から何かを学んだり、イベントに参加したりという形では得られない「自分なりの学びと楽しみ」が見つけられる月1研究会ART LABO。
ぜひ、一度いらしてみてください♪ きっとそこには、楽しい仲間たちとの素敵な時間が待っていますよ♪
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