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2015年10月16日(金)~18日(日)建築散歩直島・豊島・犬島 チャーター船で行く3島めぐり

10月6日(金)〜10月18日(日)まで、建築散歩でおなじみの岡村先生の案内で、直島・豊島・犬島を巡る3日間のツアーに参加してまいりました。

秋空の下、穏やかな瀬戸内海をチャーター船で行く贅沢な建築散歩でした。その様子を簡単ですが御報告しようと思います。

 

今回訪れた島々には、1992年、当時福武書店(現・(株)ベネッセホールディングス)の社長であった福武総一郎氏が、アートによる地域活性化と社会貢献を目的に「ベネッセハウス」を建設。その後「家プロジェクト」、「地中美術館」、「李禹煥美術館」など数々のアート施設が設けられ、世界中から観光客が訪れるアートスポットとなっています。各施設の建築には安藤忠雄、SANAAの妹島和世、西沢立衛、三分一博志、また最近では永山祐子の各氏といった著名な設計者がずらりと並んでいます。

今回は建築の面から各施設を眺め、かつ、アートと穏やかな瀬戸内の風景を楽しむという大変お得なツアーでした。

第1日目  集合場所のホテルで岡村先生から資料を頂き、簡単な説明を受けた後、いよいよ船に乗り込み直島に出発します。

 

天気は快晴。潮風が心地よく、出港10分後には全員が「来てよかった!」と思いました。

直島について最初に見学したのは 「海の駅なおしま」。柱の存在を打消し、周囲の景観を損ねない建築はSANAAの設計です。地上から見ると風景と溶け合っていますが、その屋根は70m×52mと広く、フェリーから見ると存在感抜群だそうです。

すぐ近くには今年完成した「直島パビリオン」があり、そちらは藤本壮介の設計です。

6mmのステンレス棒で構成された細かな三角形のメッシュ構造で、中にいると不思議とおさまりの良い空間でした。

その後、島に一台しかないジャンボタクシーに二手に分かれて乗り、本村地区へ。

ここにあるのは「家プロジェクト」。古い廃屋となった民家を買収、家屋・地域とアートを一体化させました。最初の取り組みは宮島達男の「角屋」。宮島さんは作品の製作過程で地住民の協力、参加をしてもらい、その結果このプロジェクトが成功する大きな要因となったとのことです。ここには「南寺」、「護王神社」、「石橋」、「碁会所」、「はいしゃ」、と「ANDO MUSEUM」があります。

道を歩いていると外壁や板塀に焼杉が多く使われています。「南寺」(安藤忠雄設計)の外壁もそうですが、焼くことで杉材の補強がなされ、酸化作用によって防火作用も高まります。

そして景観の統一のため、住民の皆さんが自主的に焼杉を使った補修をしてくださっているとのことでした。

自由見学だったのでツアー参加の皆さんはそれぞれに食事やお土産探しも楽しみましたが、あっという間に集合時間となりました。

つぎに訪れたのが地中美術館。ここは安藤忠雄の建築で有名です。受付を済ませた後、まずは「地中の庭」を通って美術館に向かいます。施設の大半を地中に埋めたこの建物は周囲の景観を損なうことなく、コンクリートの自由な構造の中に、モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームス・タレルの三人の作品のみが常設されています。

 

建物の外観や平面図が判らないことで、より作品と純粋に向き合うことができるようです。仕上げはコンクリート打ち放しで統一され、そのためシンプルですが力強く、安藤建築の真骨頂ではないかと思えました。

 

それぞれの作品のために設計された空間は作品の特性を良く生かし、人工照明を使わない≪睡蓮≫のための部屋は柔らかい光であふれ、ウォルター・デ・マリアの≪タイム/タイムレス/ノータイム≫はまるで礼拝堂のような雰囲気でした。

その後、予定にはありませんでしたが、リクエストに応えていただき「李禹煥美術館」へ。ここも安藤忠雄設計です。モノ派で有名な李禹煥の作品はその単純さのために想像力をかきたて、時間と空間を自由にします。

この個人のために建てられた建築はコンセプトを「地中美術館」と同じくし、かつ作品に負けない力強さを感じました。また海へと続く前庭にも作品が置いてあり、環境とアート作品が一体となっていました。  

 さてここまで既に夕方。今回の欲張りツアーはまだまだ続きます。タクシーに分乗し行きつくところは「ベネッセハウスミュージアム」。直島で一番初めに作られた宿泊施設のあるアート施設です。中に入ると思ったより広く、やはり半分以上が地中に埋められ、何より作品の量と値段!?にびっくり。ジャコメッティ、ラウシェンバーグ、ナウマン、リヒター、杉本博司、etc・・。

福武さんの本気度合いがわかります。ここも時間が足りなくて立ち去りがたい思いでした。外に出ると夕焼けが美しく風景全体がアート作品のようです。この場所にこの施設を作ったことの意味が分かった気がします。





第一日目の見学はここで終わり。

 

疲れた体をお風呂で癒し、夜の海をチャーター船で高松に帰りました。この日の万歩計はなんと20,000歩以上。

 

でも翌日もあります!

 

第2日目
この日は豊島と犬島へ渡りました。
まずは「豊島横尾館」。横尾忠則は一貫して生と死についての作品を制作しています。その独特の世界観を表現したのが設計の永山祐子さん。
美術館正面を覆う赤いガラスを通し、中の庭や建物が垣間見えます。赤一色で覆われているため一瞬色彩が消えてしまいますが、内部は極彩色。撮影ができないのがちょっと悔しい。作品と建築が一体となり、一つの生命体のようにも感じられました。実は葬儀の場所としても使えるようにしてあるそうです。
豊島は今では産廃問題等も有り寂れた過疎の島となっていますが、実は瀬戸内でも数少ない自給自足のできる豊かな島でした。
小豆島で有名なオリーブも実は豊島から苗を持って行ったのだそうです。今はレモンやイチゴなどの果実栽培に力を入れています。
その豊島の実力を味わえるのが「島キッチン」。島の中央部にあるこの施設は廃屋を利用し、島でとれる食材を使って地元のお母さんたちが料理を担当。併せてギャラリーや集会もできる施設です。今回はここでお弁当を作っていただきました。建物の中庭に柿木があり、それを取り囲む形で屋根が張り巡らされています。その屋根の骨組みはなんと水道管。島の人たちが既製品の水道管と針金で作ったそうです。渡された杉材の屋根の下、吹く風とお弁当がとっても美味。
腹ごしらえの後は「豊島美術館」へ。個人的には一番楽しみにしていたスポットです。ここはただ一つの作品、内藤礼の≪母型≫のための場所です。
作品との共存、周囲との調和、尚且つ棚田プロジェクトや豊島の産廃問題について考えるためのシンボリックな位置づけ。それらの問題に西沢立衛が出した答えが、最大60mにも及ぶシェル構造の柱も扉もない空間でした。
建築の方法も大変で、ドーム型に土を持った上にコンクリートを打ち、あとから土を掻き出したそうです。外周を一回りしてから中に入ると別世界が広がっています。
風も音も遮るものは何一つ無いのに、不思議と広がる静寂と安らぎ。みなさん時間を忘れてずうっと座り込み、流れる水玉を見ていました。











そのあと再び船に乗り犬島へ。島の形が変わってしまうほどの採石と、わずか十数年で打ち捨てられた銅精錬所。
今では人口わずか50人ほどに過ぎないこの島に、2008年「犬島精錬所美術館」が建設されました。三分一博志は地形と自然エネルギーを有効活用した設計を手掛ける建築家です。
この場所にふさわしく電力や水の消費を極力抑えるということで、ここでは人工の空調設備がありません。自然な風と光と井水を効率よく循環させる手法がとられています。美術館に入るとわずかな音が聞こえました。これは風が流れてくる音でした。循環して温まった空気は煙突から逃がし、土壌からの冷気と井水により館内の温度は上手に調整されるとのことでした。この建築は2011年の日本建築学会賞を受賞しています。内部の作品は柳幸典による三島由紀夫をモチーフとしたものが展示されています。

ラストは「家プロジェクト」。すでにこの日も万歩計は20,000近く。それにしても皆さまの足取りの軽いこと! 直島と同じく廃屋・空き地を利用したこのプロジェクト、犬島では妹島和世とキュレーターの長谷川裕子がタッグを組んでいます。
一つの場所に一人のアーティストの作品を置き、三年ほどの期間で入れ替え、新陳代謝を行います。ロケーションがしっかりとなされているためか、それらは突出して目立つことなく、それでいて細い路地を曲がって目に入ってくる外観は一目でそれと分かるものでした。
展示は名和晃平、荒神明日香、浅井雄介、下平千夏等々、若い作家さんたちの作品で構成されています。
ベネッセアートサイトの理念は一貫していて、建築や収集作品にもそれが感じられます。生死感が根底にあり、地域の中に生が根付く。そんな印象を受けました。
そしてこのことが魅力の一つになっているのではないでしょうか。
またそれぞれの建築家の個性の違いも読み取ることができ、アートと建築の関係について考えることの多い旅でした。 以上で二日間のコースは終了です。
さすがに疲れましたが、夕日を眺めながらの瀬戸内クルーズも最高でした。また夜の部の交流会も楽しいお話で盛り上がりました。的確な解説で、何より一緒になって楽しんでくださった岡村先生、ありがとうございました。
(レポート:高橋まき子)
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