ART LABO
2026年6月6日(土) フィールドワーク:岩淵水門見学

6月のアート・ラボは東京都北区志茂の荒川知水資料館と岩淵水門を訪問しました。
不順な天候が続いていましたが、この日は雨にたたられることもなく快晴です。
集合場所は荒川知水資料館のエントランス。
美術館やギャラリー、アトリエなどアート系施設とは一味違う雰囲気に皆ワクワクです。
実は数日前に天皇陛下が岩淵水門を訪問されたというニュースが流れたばかりのタイミングで、そんなホットな話題で盛り上がるメンバーを出迎えてくれたのは、ボランティアスタッフの林さんと土井さんです。
荒川知水資料館は、国土交通省荒川下流河川事務所と北区が共同で運営する博物館。荒川の洪水や水害の歴史、自然環境について情報発信するほか、流域や地域住民との交流拠点となっています。
まず館内で林さんから岩淵水門がつくられた歴史的背景やその機能についてご説明いただきました。
ポイント1:
江戸の繁栄をもたらした家康の治水計画
約400年前、徳川家康は埼玉東部の新田開発や江戸との水運整備、中山道の水害対策などの目的で旧荒川や利根川のつけかえ(流域変更)をはじめとする治水計画を進めました。これによって江戸の街は飛躍的な発展を遂げたのです。


ポイント2:
荒川下流部、岩淵水門エリアから約22㎞は人工的に開削された放水路
もともと隅田川は「荒川」とも呼ばれ、四年に一度くらいの頻度で水害が発生していましたが、1910年に東京の下町を襲った未曽有の大洪水(死者約400人、被災者約150万人)をきっかけに1911年から荒川放水路の開削が始まり、1924年に荒川と隅田川の分岐点にあたるこの場所に岩淵水門が建設されました。
放水路の開削と水門の設計・施工を指揮したのは、日本人で唯一パナマ運河の建設工事に携わった土木技術者・青山士(あおやま あきら)です。
ポイント3:
100年の歴史を語る赤水門と青水門
初代の岩淵水門(赤く塗られているので赤水門と呼ばれています)は、当時としては珍しい鉄筋コンクリート構造物で、基礎は川底からさらに20mにもおよぶ鉄筋コンクリートの枠を12本埋め固めたもので、1947年のカスリーン台風や1958年の狩野川台風の際にもその機能を十分発揮してきましたが、老朽化や東京東部一帯の地盤沈下などにより1982年、約300m下流により大規模な二代目の岩淵水門(青水門と呼ばれています)が完成しました。
それから44年。
青水門が閉鎖したのは5回だそうです。直近では7年前の令和元年の東日本台風時でした。
ということはそろそろ…


館内でレクチャーを受けた後は、屋外で実際に2つの水門を見学しました。
水門・閘門の中では現存する唯一の構造物である赤水門は、近代化産業遺産や都選定歴史的建造物に認定され、その役目を終えた現在、整備された「荒川赤水門緑地」とともに市民の憩いの場になっています。
私たちのように見学に訪れる人だけではなく、お弁当を広げるファミリー、サイクリングやジョギングする人、釣り人やテナガエビ採りを楽しむ人、飛来するチョウゲンボウのシャッターチャンスを狙う人…皆それぞれに、気持ちよく晴れた土曜のお昼時を楽しんでいました。
それに対し、今も大都市・東京を水害から守り続けている青水門は現役感にあふれ、圧倒的なスケール感で迫って来ます。
同じ大きさの横幅20m×高さ16m、重さ214tのスチールゲートが3門。上流部の水位計が4mを超えると1門あたり45分かけて5分間隔でゆっくり閉鎖します。
開閉は水門上部にある4つの機械室にある巻上機で行いますが、とりわけメンバーの目を引いたのはこの機械室のフォルムです。
打ち放しのコンクリート、直線的造形、船室のような丸窓…モダニズム建築を連想させるようなたたずまいなのですが、設計・施工はコンペで選定されたゼネコンとのことで、特定の設計者情報は伺えませんでした。


見学を終え資料館に戻ると、エントランス横に「荒川放水路完成記念碑」がありました。
この碑は青山士をはじめ当時の工事関係者一同が工事の犠牲者を弔うために資金を出し合って建立したもので、「巨大な土木事業は関係者全員で造りあげてゆくもの」という青山の精神が刻まれたものです。
確かに先ほど水門脇の通路から見上げた威容から、自然の脅威と対峙した人々の意思と覚悟が伝わって来るようでした。
このほか、荒川知水資料館にはシアタールームや体験コーナー、地域交流スペースやライブラリーなどがあり、さまざまなワークショップやセミナーも定期的に企画されています。
また、今回お話を伺った林さん、土井さんをはじめ多くのボランティアスタッフがエントリーしていて、そうした企画を支えています。
以上、ちょっと目先を変えたフィールドワークでしたが、近年注目されている「アートとソーシャルデザイン」という視点で考えてみれば、今回訪問した岩淵水門エリアは、2つの岩淵水門と荒川知水資料館を中心として、生活安全やコミュニティ創出、地域活性化といった社会課題の解決・改善をもたらすインフラと言えるのではないでしょうか。
(YS記)

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