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2024年4月6日(土) 埼玉県立近代美術館「アブソリュート・チェアーズ」展


椅子のコレクションで有名な埼玉県立近代美術館。
アートラボのフィールドワーク先としても個人的にも何度か訪れ、館内のあちこちに置かれた座り心地のよい椅子に癒されてきました。
今回はまさに椅子をテーマにした展覧会「アブソリュート・チェアーズ」が開催されているということで、北浦和公園の一角にあるこの美術館を再訪いたしました。

アートラボの今年の共通テーマはデザイン。
そして椅子と言えばデザイナーズチェアを連想しますが、この展覧会のコンセプトはむしろアートの側面から椅子にアプローチするものです。ほぼ同時開催のコレクション展では、美術館が収集してきたデザイナーズチェアの数々を見ることができます。
展示室の外にも自由に座れるいくつかの魅力的な椅子が置かれています。
また、今回は学芸員さんによるレクチャーという貴重な機会を得て、展覧会についての理解をより深めることができました。 展覧会は5つの章に分かれています。
章ごとに振り返ります。
第1章      美術館の座れない椅子

《自転車の車輪》スツールの上に取り付けられた自転車の車輪。マルセル・デュシャンの最初のレディメイドの作品とされています。椅子、車輪の日常品としての機能を失わせオブジェとして成立させました。

《複合体(椅子とレンガ)》高松次郎によるこの作品は、椅子の足の一本の下にレンガを置いたもので、たったそれだけで椅子は傾いて本来の機能を失い、見る者になんとも落ち着かない不安定な気持ちを抱かせます。

他、岡本太郎の《坐ることを拒否する椅子》や、カラフルな椅子をつないだジム・ランビーの《トレイン イン ヴェイン》など、本来の用途から離れて美術作品としての新たな意味を付与された「椅子」をモチーフとした作品が並べられていました。

第2章      身体をなぞる椅子

人間の身体と椅子との関係性について、作品を通して考察します。 《座れる人物》他。 
フランシス・ベーコンが描く、歪められ崩れゆく人間の身体。しかしともに描かれる椅子やベッドなどの存在は、それらの肉塊を現実世界や日常世界に繋ぎとめる役割をしています。
《シニアズ・ロッキング》アンナ・ハルプリンによる映像作品。足腰の弱った高齢者たちがロッキングチェアに座り集団でダンスをしています。ゆりかごを連想させるロッキングチェアは誕生と老いを象徴しています。人間はその一生をとおして椅子との関わりを持っているとも言えるでしょう。  
第3章      権力を可視化する椅子

西洋社会では、椅子は権力の象徴でもありました。
背もたれやひじ掛けのある現在の椅子も玉座にその原型があると言われます。
処刑に使われる電気椅子は、権力による拘束の残酷さを物語ります。(アンディー・ウォーホルの作品)

また、椅子は権力への抵抗の場面でも使われ、1960年代の学生運動ではバリケードとして授業用の椅子や机が積み重ねられました。

第4章      物語る椅子

椅子は人の日常生活に溶け込み、さまざまな記憶や存在、気配や幻影などを反映しています。そのため芸術作品にも一種のメタファーとしてしばしば用いられています。

《マイハズバンド》潮田登久子が古い洋館で家族と暮らした日々を記録した写真シリーズ。衣類が積み上げられた椅子やベビーチェア、人形用の椅子など、生活の中のオブジェとして多くの椅子が登場しているのがわかります。
第5章      関係をつくる椅子

最後の章では、他者との関係性をつくる椅子の機能に焦点を当てます。 《白いチェス・セット/信頼して駒を進めよ》敵も味方も盤面も白く塗られたチェス・セットが置かれたテーブルと椅子。
オノヨーコによるこの作品は、鑑賞者に参加を促しますが、どの駒が自分の駒がわからないため、お互いに信頼し合いながらゲームを進める必要があります。
椅子は人間のコミュニケーションの場であることを再認識させられます。 逆に、公園のベンチに仕切りを設けて寝そべらせない、排除アートと呼ばれる椅子も存在します。
路上生活者のような特定の属性を持つ人々をコミュニティから排除する目的でそのようなことが行われています。

全体として、椅子というものがいかに身近で、だからこそ多くのアーチストたちがインスピレーションを受け、モチーフとして扱ってきたことがよくわかる展示でした。

美術館中央の吹き抜けには、ミシェル・ドゥ・ブロワンによる《樹状細胞》が吊り下げられています。会議室用の椅子を組み合わせて球体にしたもので、椅子の足が外側に向けて突き出しています。一見ウィルスのように見えますが、タイトルの樹状細胞は身体を守る免疫細胞です。

まさに座ることを拒否する椅子の集合体で、かたくなに自己を守ろうとする意志が感じられるような気がしました。この作品は美術館の階によって見え方が違うのでそこも面白く感じました。
吊り下げられたその下にはハンセン病の人々に尽くしたダミアン神父像などいくつかの宗教的な彫刻があります。
「用の美」やデザイン性が秀でた美しい椅子を期待してこの展覧会を見ると見事に裏切られますが、良い意味で裏切られると言ってよいと思います。日常から逸脱した椅子のありようを見ることで脳が刺激を受け感情が揺さぶられる、非日常の体験ができる展覧会でした。                            (安田)



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