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2023年12月2日(土) 「2023年個人テーマ発表 VOL.2 +来年テーマ決定」


12月のアート・ラボは11月に引き続き、各メンバーが取り組んできた今年度の個人テーマの発表と、2024年度の全体テーマを検討・確定しました。  

  【2023年度個人テーマ】(当日発表順)
私が見たSite Specific 2023−4つのアート− (Saさん)
 まず紹介されたのは丹下健三の《広島平和記念公園》です。当時のコンペ記録のなかで唯一、原爆ドームを軸線上に包含して設計されたのが丹下プランのすごいところ。まさにサイトスペシフィックであると同時に“タイム”スペシフィックな設計といえるでしょう。
次に妹島和世がデザインした西武鉄道の車両《Laview》。車体塗装に初めてセミグロス(ツヤ消し)仕上げを取り入れ、景色の映り込みで周囲の風景に溶け込む仕掛けです。3つ目は原広司による京都駅の設計です。彼はあえて“古都”に超未来型建築をぶつけました。あえてその場とは真逆のものをプランする。これもサイトスペシフィックといえるでしょう。
最後はチームラボによるオペラ『トゥーランドット』(2023年2月 東京)の舞台装置です。
伝統的な手法とは一味違う、客席と舞台とが融合する演出。彼らの没入型アートは多くの可能性を秘めています。
入江長八の鏝絵 (Suさん)
江戸末期から明治にかけて活躍した左官職人、入江長八(伊豆の長八)の鏝絵作品が紹介されました。
平坦な漆喰の壁面に絵を描くことはすでに飛鳥時代から行われてきましたが、江戸末期以降、防火の目的で盛んにつくられた土蔵を中心に左官職人たちは競って鏝を振るうようになります。
そんななか、長八は狩野派の喜多武清から学んだ確かな絵画技法を応用し、漆喰細工を「鏝絵」として外壁だけでなく、室内観賞用の芸術品に昇華させました。作品の多くは震災や戦争により失われましたが、長八の故郷、西伊豆・松崎町を中心に建築装飾のみならず塗額(額装の鏝絵作品)や鏝絵屏風、塑像、焙烙(ほうろく)絵などの工芸品、鏝絵以外にも絹本・紙本の掛軸が残されています。
そのモチーフは花鳥、山水、神仏、故事をテーマとしたものなど多岐にわたります。
鏝絵はもともと建築装飾であり、まさにサイトスペシフィックなものですが、長八はその優れた技量ゆえ、むしろ鏝絵を建築から自立させようとした…すなわちアンチサイトスペシフィックな方向性を模索していたのかもしれません。
北村西望とサイトスペシフィックアート (Tkさん)  
男性的で力強く、独特のデフォルメ感が感じられる作例を紹介しながら、「写実と抽象」「場と文脈の関係性」「コミュニケーションと創作」という3つの視点から西望作品のサイトスペシフィック性についての考察が示されました。
一般にサイトスペシフィックアートは「場所」との関係性を重視しますが、必ずしもその場所固有の歴史的文脈や、彫像など特定の形態による固定されたメッセージを重視しているとは限りません。とりわけ現代のサイトスペシフィックアートの多くは、むしろ抽象的な造形であり、作品と場所と鑑賞者が出会うことで生まれるコミュニケーションが重視されます。
一方で、その後の歴史認識の変化によって数奇な運命を辿ることとなった《山県有朋騎馬像》や、被爆者の想いを十分に反映しているとは言い難い長崎の《平和祈念像》に代表される西望の作品は、いずれも写実的で固定された形態と予め付与された、人や場所固有の記憶が優位になっています。
かに彼が制作していた当時は「サイトスペシフィック」という言葉はありませんでしたが、同じように公共性をもつ作品でも時代によってその性格は大きく異なるようです。
 森万里子 (Tdさん)  
写真、ビデオ、デジタル・イメージ、パフォーマンスやインスタレーション作品で国際的に高い評価を得ている森万里子は、文化服装学院卒業と同時に渡英しチェルシー美術大学で学んだ後、ニューヨークのホイットニー美術館のインデペンデント・スタディ・プログラムに参加し、ニューヨークを拠点に活動を開始しました。
初期は《Birth of a Star》など未来をイメージさせる象徴的な都市環境を背景に日本のポップカルチャーを意識した写真や映像作品を制作していましたが、次第に宗教的なイメージを取り入れたインタラクティブな作品に取り組むようになり、法隆寺夢殿をモチーフとした《ドリーム・テンプル》やヴェネチア・ビエンナーレに出品した《WAVE UFO》で広く世界に知られるようになりました。
近年は宗教以前の、さらに普遍的なテーマを発表しています。今回特にサイトスペシフィックな視点で紹介されたのは宮古島で制作された、冬至の日の日没に太陽光による光と影が重なり合う《サンピラー》《ムーンストーン》と、本年杮落としとなった彼女の別荘《ユプティラ》です。いずれも宮古島の自然の風景に溶け込んでいます。「自然と人間社会との融合」はサイトスペシフィックアートの重要な今日的テーマです。
トーマス・へザウィックの建築 (Haさん)  
ニューヨークからのリモート発表です。今春、森美術館の「へザウィック・スタジオ展:共感する建築」で話題を呼んだトーマス・へザウィックの建築が紹介されました。はじめにハドソン川の水上公園《リトル・アイランド》。
川から林立するいくつもの漏斗のような躯体に支えられた緑の空中庭園。展覧会のフライアーにも使われたインパクトのある写真を記憶されている方もいらっしゃると思います。一般的に桟橋は川底に沈む「構造杭」「スラブ」という基礎部分の上にフラットにつくられますが、へザウィックはこの基礎部分をあえて露出させ、平坦に広がるマンハッタンとは対照的に、さまざまな空間を形成する高く立ちあがったプランを考えました。
次に巨大再開発エリア、ハドソンヤード内の垂直公園《ヴェッセル》。インドの「階段井戸」からインスピレーションを得た154階、2500段の階段からなるハチの巣のような「空に向かう遊歩道」です。 
いずれもマンハッタンというエリアだからこそ着想された、上に伸びてゆく建築。先述の京都駅(原広司)のコンセプトにも通じますが、これもサイトスペシフィックな事例です。
オラファー・エリアソン (Maさん)  
オラファー・エリアソンは光や水、森などの自然現象を知覚体験として表現する作品によって世界的に高く評価されているアーティストです。アイスランドとデンマークに生まれ育ったことが彼の制作の大きなモチベーションとなっています。
無害な染料により川を緑色に染めた《グリーン・リバー》や、テート・モダンに人工太陽を出現させた《ウェザー・プロジェクト》など初期の代表作品をはじめ、更に環境問題にフォーカスした近年の作品群、とりわけエリアソンの故郷でみられる気候変動を写真で表現した《溶ける氷河のシリーズ1999/2019》を示しながら、「経験とは責任であり、経験を有するとは世界に参加すること」「無関心にならないようにするにはどうしたらよいかを考えるのです」といった彼の言葉が紹介されました。 
美には説得力があり、たとえそれが小さな影響力だったとしても、そこから何かが始まる…同じ空間で人がともにアートを体験することを重視するエリアソンがサイトスペシフィックアートを発信し続ける理由は、まさにここにあるのでしょう。
【2024年度のテーマ検討】
来年度のテーマを検討しました。前回のラボで出た意見も踏まえひきつづきフリーに意見を出し合い、「日本美術史」「デザイン」「音楽」「水とアート」「展示空間と作品の関係」など多くの興味深い方向性が示され、全員で協議した結果、2024年度のテーマを 「デザイン」 とすることになりました。             (YS記)
先生から何かを学んだり、イベントに参加したりという形では得られない「自分なりの学びと楽しみ」が見つけられる月1研究会ART LABO。
ぜひ、一度いらしてみてください♪ きっとそこには、楽しい仲間たちとの素敵な時間が待っていますよ♪
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