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2023年3月4日(土):フィールドワーク「府中市美術館+α」


今回のフィールドワークは、府中市美術館の屋外展示と調布にある「ギャラリー&カフェみるめ」を訪ねました。    

今年のテーマが作家を掘り下げるというものですが、ノージャンルだと範囲が広くなり過ぎてまとまりがなくなるということから、テーマがサイトスペシフィックになりました。今回はそのサイトスペシフィックな屋外展示作品のある府中市美術館を訪れました。  
この日府中市美術館は休館で館内には入っていないのですが、同館学芸員の志賀秀孝さんが休日にも関わらず来てくれて作品の解説をして下さいました。志賀さんは府中美術館の設計にも携わった方でもあるそうです。
今回の作品ですが、美術館正面入り口の前面にある若林奮の《地下のデイジー》です。
屋外の石畳の一部の、石畳4枚分(1枚60cm四方)のスペースに大きな鉄板が敷かれ、その上にさらに石畳1枚分の大きさの鉄板が3枚が重ねられています。
この重ねられた鉄板には12個の楕円形の穴が円を作るように開けられており、花びら模様にも見えます。この作品これだけかと思いきや、実はこの鉄板が地中約3メートルの深さまで120枚が重ねて埋められているそうです。

美術館にある解説パンフレットにはその写真があり確かに埋められているのでしょうが、しかしそれをこの場所で実際に確認することはできません。
ですから、その情報を知らなければ、この作品を見た人は、鉄板が数枚重ねられたものがそこに置いてあるとしか認識できないのです。  


作者は、なぜ地下に鉄板を埋めたのでしょうか。
当初案では鉄板を重ねたかったそうですが、災害時を含め来館者にとっても危険性のあるものは避けたいとして設置場所も含め再検討してもらったところ、若林本人は新たなアイデアとして現在の場所にしかも地下に埋めたいとして今の形になったものです。
若林が国分寺や府中のところどころにあるハケと呼ばれる崖から地層を着想したのではないかとのことでした。

美術館から拒まれたことがきっかけで結果的に埋められ新しい形になった作品ですが、 学芸員の志賀さんは「何百万年もたったらこの積み上がった鉄板自体も褶曲したりズレたりしてるかもしれないという遊びかもしれない」と解釈されていました。
それと、この作品は定期的に手入れされており錆も発生していないものですが「このまま放っておいて自然に錆びていくというのも作品の一つのあり方ではないか」という考え方も示してくれました。
ただ、これには賛否あると思います。  
志賀さんが、作品のことを子供に話をする時には、この地面の中にも鉄板がまっているけどそれは本当だと思う?と問いかけて、有るとか無いとかいうことを考えさせる作品にもしているそうです。  

若林のこの作品は、まさに土地や場所の特性を生かした作品であり、サイトスペシフィックという定義を改めて確認するという意味でとても適した作品でした。  


府中市美術館を終えて調布の「ギャラリー&カフェみるめ」に移動しました。正面全面がガラス張りの2階建ての建物で、1階がギャラリー、2階がカフェの吹き抜けスペースとなっているおしゃれな空間でした。  

染矢義之さんの展覧会が行われており、作家ご本人もおられました。染矢さんは彫刻家で版画家でちょうど今流行りの言葉になる二刀流作家です。
もとは彫刻作家だったという以下ご本人のお話です。  
「もともと彫刻作家だったけれど、あるときスランプに陥りました。しかしこのままだと作品を作らなくなってしまうと思い、何か違うことをやってみようと考えて始めたのが版画です。ただ、美大卒ではあったけれどとくに版画を習ったわけでもなく、木版画なら小学校で習ったその技術でやれるだろうと始めました。そしてしばらく版画だけをやっていたのですが、すると周りからは版画家になったんだねと言われるようになりました。するとそう言われると今度はまた彫刻やってみたいと思うようになりました。このようにして今度は版画、今度は彫刻というような繰り返しがいつしか自分の中で精神的なバランスをとれる方法になっていました。
今回の作品展示ですが彫刻と版画の双方を合わせて展示したのは初めてです。今まではどちらかをメインにして片方を少し置くような展示でした。」
ということで現在は彫刻版画とも両立して創作しておられます。


作品ですが、版画作品「境116」ではモノクロで、草原の草が風にたなびいているような風景ですが、草一本一本がしっかりと彫られておりそれらが大きな草原風景を形成しています。

草原という大きな風景である一方で超絶技巧を思わせるような繊細な彫りが対照的で印象に残りました。
そしてタイトルにもありますが、ところどころに境目のような道のような分け目部分があり、これが草のたなびきだけではないアクセントとなり何かストーリーも想像させるようです。
彫刻作品「どこかの花」では、茎のようなものが緩く美しく湾曲しながら伸びているもので、茎の途中に小さい葉のようなものが出ており、これがより植物らしい形を示すものになっています。
最上部の部分に花は咲いておらず、これから咲くのか、それとも落ちてしまったのか、逆三角錐ようにやや太くなった形が花とか蕾とかを想像させるような形になっています。
そして地面の横部分に小鳥がいることで植物だけより物語が膨らみます。作品は白く塗られており、土台の部分の側面だけ素材の木が露出しています。  

彫刻作品について染矢さんは次のように言っていました。「自分は彫刻に着色するのが好きではありません。しかし木の地肌、木目を見せているとそちら負けてしまい、注目が木目であったり素材そのものにいってしまうことがあるので、それを消すために白く塗っています。ただ全部白に着色していたら、ある時これは石膏作品ですかと聞かれたことがあったので、やや木の部分を出すようにしています。」


また、作品について染矢さんは、
「版画は景色、彫刻は花や鳥であるけれど、それらはいずれも具体的な対象があるものではありません。しかしそれらは自分の過去の記憶や経験の中から生じているものであって、全くの無から作り出しているものでもありません。タイトルの『どこではなくどこか なにではなくなにか』は、そういった意味です。ですから、どのように見るか、それは見る人に任せています。そして、これまで彫刻と版画は自分の中では別物でしたが、実際に合わせてみると意外と共通点があることを感じています。」
とのことでした。  

このギャラリーでの展示ですが、版画と彫刻が合わせて並んでいましたが、まるで二人展をやっているような雰囲気で、良い意味で同じ作家の人の作品という感じがしなくて、それも斬新でとてもよかったです。  
今回、最初に訪ねた府中美術館には、まだ屋外作品がたくさんあったのですが、移動時間の関係から一つしか見ることができなかったのが少々残念でしたが、サイトスペシフィックの定義を確認するにはとても良い作品でした。また後半のギャラリーでは、作品の趣も変わり、作家ご本人からもいろいろ話を聞くことができ大変楽しいものとなりました。                                          (柴ア) 

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