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2022年5月7日(土)フィールドワーク:「森美術館をくまなく見てみよう!」


5月のART・LABOのテーマは、「森美術館をじっくり観賞しよう」です。森美術館では5月29日まで「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」が開催されています。
Chim↑Pom from Smappa!Group※は原爆ドームの頭上に「ピカッ」と文字を描いたり、震災後に渋谷駅の岡本太郎の壁画に福島原発の絵を付け足したりと、ゲリラ的活動でも話題となった、何かと注目されている6人のグループです。
その行動は常に社会に対する強いメッセージ性を含み、いま日本で最もラディカルなアーティスト集団であると言えます。

現代社会に存在する事象に彼らなりの解釈を持った作品を見ることは、ART・LABOの今年のテーマである「社会環境とアート」を考えるうえで最適な素材であると言えます。
そして活動のメインがストリートであるChim↑Pom from Smappa!Groupが、結成から17年という比較的短い期間で美術館での回顧展を開催するということに対しても、大変興味を持って鑑賞しました。

展示室内に入って驚いたのは、二層構造の構築物で足場の様なものが延々と組まれていたことです。その中を進んでいくと《スーパーラット》や《ブラック・オブ・デス》といった比較的初期の映像や《ビル・バーガー》といった作品が並んでいました。

 

階段を上った先はアスファルトで舗装された《道》であり、会期中ここで様々なプログラムが開催され、その痕跡が残されていました。美術館の中にこれほど大きな造作が有るのは初めて見たような気がします。《道》の終わりにある大きなごみ袋の《ゴールド・エクスペリエンス》は、社会と常に隣り合わせの環境問題の比喩と取れました。

 

展示はその後も福島の帰宅困難区域で現在も開催されている「Don’t Follow the Wind」、「ヒロシマ」、「東日本震災」、メキシコとアメリカの国境での移民問題の「ジ・アザ―・サイド(向こう側)」、コロナ過での新しい生活に焦点を当てた「May, 2020, Tokyo」、唯一の女性メンバーであるエリイの視点を通して社会問題を投げかける「エリイ」といった構成が続き、最後のミュージアム・ショップまでもが「金三昧」として一つのセクションとなっていました。

 

一つ一つの作品には様々なメッセージが込められ、全体の情報量の多さに驚かされました。



 一通り鑑賞した後、コーディネーターとしてとしてこの企画に携わられた田篭さんにお話を伺いました。以下はその要約です。

 

17周年を迎えたChimPom from Smappa!Groupは意表を突くアイディアと行動力に長けて騒動を起こしたことも多々あるが、彼らが何を考えて作品を作るのか、答えは一様ではないけれど考えてほしい。

 

・《ヒロシマの空をピカっとさせる》は平和な日本の成立には犠牲があること、現代日本社会の原爆に対する無関心を視覚化しようとした。しかし翌日には新聞で報道され、バッシングも受け、記者会見で事前告知の不備を陳謝した。その後被爆者団体との対話を続け、良い関係を気付くことが出来た。彼らの作品はこのような事後も含めた行動がセットとなって成立しているように思う。

 

・フクシマの《気合100連発》もバッシングの対象となってしまったが、バッシングする人は作品を見ていないで反対しているのではないだろうか。とにかくじっくり見てほしい。

 

・《くらいんぐみゅーじあむ》は新作であり、美術館で子供が泣くと白い目で見られるという社会の空気があり、子連れでなかなか美術館に来られない。そこで専用の保育所を作ることで、子供に不寛容な社会の問題を可視化した。

 

・《道》は国立台湾美術館で2014年に制作されたことがあるが、その際は、美術館の敷地でも公道でもない、第三の公共空間として、美術館と折衝して作り上げた独自のルールを《道》に適用することを作品とした。今回も森美術館という場の中に《道》を作りChimPom from Smappa!Groupが考えるルール、美術館のルール、公共のルールをどのように道に適用するか、という折衝を続け、道における「公」をどうとらえていくかを考える場所とした。 

次に参加者からの質問に答えていただきました。

 

問:大型の展示であり、消防法などの兼ね合いをどのようにクリアしていったのか。

答:ビルの53階であるので、条件は非常に厳しいものがあった。とにかく消防署には何度も足を運んだ。安全性ということであれば、《ウィ・ドント・ノウ・ゴッド》(火を使った作品)は美術館内で灯し続けるのは難しい。安全対策を幾重にも施しており、例えば、種火を他の場所に保管し、毎朝開館前に点けるなどの運用をしている。

 

問:たくさんの千羽鶴の《パビリオン》は環境問題に対する作品なのか、またウクライナに送るなどは考えていたのか。

答:今でも毎年広島には世界中から千羽鶴が10トンほど送られてくるという。善意の千羽鶴であるが、保管の問題などはあるようだ。積み上げた山のような千羽鶴を鑑賞することで平和を希求する多くの人々の気持ちと向き合うことを願っている。続く《ノン・バーナブル》では千羽鶴を解体した折り紙を使って、新たに折鶴に作り直すという作業を鑑賞者にやってもらう。同じ鶴を複数の人が折ることで平和を希求する善意をループさせることができる。同時に鶴の数を少なくすることも。作り直された千羽鶴は広島に送り返している。

 

問:作者がキュレーター的立場にあるようだが、実際にはどうだったのか

答:作家がやりたいことが本当に展覧会に必要かどうか吟味し、そ上で実現化させるのはキュレーターの仕事。美術館の中でどのように具現化するのかアドバイスもする。具体的には美術館で灯を灯したいという作家に対し、どうやったら展示できるのかを考えるのはコーディネーターの仕事でもある。

 

以上が田篭さんから伺った概要です。



展示を見て気付いたのは、Chim↑Pom from Smappa!Group の活動の裏には常に対話が伴い、一過性で終わらないものであることです。

 

2017年に国立台湾美術館で設置された《道》では、美術館との対話の中で一般の道で許される行為がなぜ美術館で許されないのかという問いかけから、Chim↑Pom from Smappa!Groupの望むルールと美術館のルールとの間での公共性の解釈の相違を考えさせられます。

 

彼らは個々の要望を美術館に提示し、その結果と対話そのものを作品化しています。それはアートを特別なものとしてではなく、自分たちの日常感覚に近づける行為であると言えるでしょう。

《ヒロシマの空をピカっとさせる》での被爆者団体との対話以外にも《LEVEL 7 feat 明日の神話》や「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」プロジェクトなど、やはりその後の行動がセットとなっています。

日常誰もが感じているはずの不条理を独自の柔軟な視点とアートという方法で暴き出し可視化することで、社会に存在する問題を提起させています。柔軟であることから来る一時的な行動だけをとらえればバッシングもされてしまうけれど、前後を知ることで問題は普遍的なものであることに気づくのではないでしょうか。

 

個人的には福島の避難指示が解除され、「Don’t Follow the Wind」のプロジェクトを見に行けることを願っています。

また、美術館内で納めることのできないイベントの場として虎ノ門ヒルズ近くに別会場が設けられていました。そこではイベント以外にも《スーパーラット》、《ハイパーラット》の映像が流されていて、壁には“排除されても駆逐されない”という文字が書かれていました。

スーパーラットを自分たちの分身のように例えるChim↑Pom from Smappa!Groupの意思表示であるかのようでした。


この様に中身の濃い展示を行えるのは私立の、しかも経済力の有る森美術館ならではのものであると言えます。
同時に開催されている「MAMコレクション014:重力と反転、ミクロとマクロ− 立石大河亞、イン・シゥジェン(伊秀珍)、岩崎貴宏、金氏徹平」、「MAMスクリーン015 ルー・ヤン(陸揚)」、「MAMリサーチ008 突然、顕わになって−東南アジアの美術と建築 1969‐1989」も、シリーズ化した企画であり著名な作家の作品展示だけではなく、興味深いものでした。  

今回のART・LABOは作品と共に展示を行う美術館についても考えさせられることの多い充実した訪問となりました。    

※Chim↑Pomは4月27日付でChim↑Pom from Smappa!Groupと改名しています。       
                                           (書記:高橋)  

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