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2020年9月5日(土)フィールドワーク「作家さんのお話を聞いてみよう!」


今回のフィールドワークは埼玉県の浦和駅周辺です。
駅から近い2軒のギャラリーを訪問しました。そしてそれぞれの作家さんに話を伺うことが出来ました。

 まずはギャラリー「楽風(らふ)」。
ここは旧中山道沿いに江戸時代から続くお茶屋さん「青山茶舗」の納屋をリノベーションし、日本茶喫茶兼ギャラリーとしているところです。古い土壁と広い開口部が猛暑の中でさっぱりと涼しげに感じられます。

ここでは「坂本一樹絵画展 宙の譜−WAVE−」を見学しました。古びてそれでいて磨かれた階段を上ってゆくと、2階の2つの部屋に作品が並んでいます。作品は水彩紙に墨一色で描かれ、そこには具体的な事物が存在しません。下地の白を残した細かいグラデーションのみで描かれ、あるものは投げかけられた光であり、また植物のようでもあり、不思議な力が感じられます。作品ごとに使い分けられた墨の色彩は、力強く、あるいは暖かく心地よいものでした。
作者の坂本さんは南房総の自然豊かな地に住み、制作を行っています。その作品の背景には常に自然が有るようです。
坂本さんは多摩美の日本画を専攻した後、90年代にはアフリカの動物を写実的に描いていました。しかし遠い所の珍しいものをなぜ描くのか、次第に疑問が沸き、その後に見たアウトサイダーアート展でクレヨンや鉛筆で自由に描かれた作品にふれて子供のころの楽しさを思い出し、そこからクレパスで線を引いて色を塗ることを始めました。

その結果として自然に湧き出たように描かれたものを銀座の画廊に展示しましが、それは以前の動物の絵とは全く違ったために不評だったそうです。 その後クレパスを岩絵の具に変えて出来上がったのが≪宙≫のシリーズでした。
画面に市松模様に線を引き、浮かび上がった形に自由に色を塗る。しかしこれも慣れてゆくことで次第に工芸的になってきたと感じた坂本さんは、昨年の年明け頃から墨による制作≪WAVE≫を始めました。10年以上熟成された墨はひとつひとつ色合いが違っていて、それぞれの作品に反映されています。
そして和紙ではなく丈夫な水彩紙を使うことで、繰り返すグラデーションによる表現の幅が広がっています。さらには墨の代わりに水彩絵の具を使ったらどうなるだろうということで、一階には色彩豊かな小作品が展示されています。こちらは墨とは違って、混色しない絵の具そのものの色が重なった透明な美しさの有る作品でした。








続いて2件目のギャラリーは歩いて数分の「つきのみちくさ」。
ここではギャラリーぺピンの5周年企画として「升方允子個展 -air- 」が開かれています。
建築家ご夫妻がオーナーであり、古民家の建具を利用した新築のスペースで、古い戸棚が残され、壁や床は節目がアクセントとなった板張りとなっています。

入口の有る土間の通りに面した側は格子戸様になっていて、展示されたガラス作品に柔らかく光が当たっていました。 升方さんは多摩美の工芸学科でガラスを専攻されました。展示されていた作品は石膏と吹きガラスを組み合わせたもので、壁に掛けてあるレリーフ状の作品は初期から今まで続く作品の形態ですが、新作だそうです。

3年ほど前からは吹きガラスを使った立体を制作しているとのことです。ガラスのコップ状のものに焼成された石膏や細いガラス棒を組み合わせた作品、電気炉に使用される棚板をキャンバスに見立て、ガラスを組み合わせた作品など、ガラスの柔らかさや透明感、石膏のもろさや温かさが感じられます。 なぜガラスと石膏という組み合わせなのでしょうか。
作者の升方さんは透明で存在感の薄いガラスと焼成後の水分の飛んだ石膏との対比が面白かったとのこと。両者とも壊れやすく汚れやすい素材ですが、時によりガラスが強く、またある時は石膏が強いといった面白さがあるそうです。升方さんの作品は素材そのものからのインスピレーションを大切にしていて、そこには技術に傾倒しやすい工芸に近い創作との相違があります。そして存在感が薄く壊れやすい素材の立体作品は、三次元のボリュームとは無縁であるかのように感じられました。
今回は小さなギャラリーの訪問となりましたが、二人の作家さんの作品はアートの様々な要素を内包していると考えられます。坂本さんの作品からは「なぜ」、「なにを」、「どのように」という問いが浮かび上がってきました。
珍しい動物たちから自由に思いのままに線を引く、さらには絵具の特色を生かした表現に至るまでの遍歴は、絵画を自分のものにしてゆく過程と受け取れました。升方さんの作品からは立体の軽さと有り様について考えさせられました。

特に今年のアートラボの課題である「彫刻・立体について」に対し、一つの見方を提示されたようにも感じます。そして奇しくもお二人の話の中に技術に重きを置く工芸との区別化と受け取れるワードを聞けたことは、「なにを」、「どのように」作るかということに対する答えの一つであったようです。
                                             (文責 高橋)
  
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