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2020年3月7日(土)フィールドワーク 井の頭自然文化園 「彫刻館」


 3月のアート・ラボでは、井の頭自然文化園にある北村西望の彫刻を見に行きました。井の頭自然文化園というと、長寿だった象の「はな子」がいた動物園として知られていますが、その中には、長崎の《平和祈念像》で知られる彫刻家北村西望の作品を納めた彫刻館A館・B館、西望が《平和祈念像》を制作する時に使ったアトリエ館、それに多くの野外彫刻があります。

3月に入ってから、新型コロナウィルスの影響で多くの美術館が閉館していますが、ここ井の頭自然文化園ではイベントが中止されたり、モルモットふれあいコーナーが休止したりはあるものの、彫刻は見ることができたのが幸いでした。 昨年から彫刻の学芸員をされている土方浦歌さんに、案内していただきました。

正面入口すぐのところに、《天女の舞》という作品があります。台座から雲のようなものが湧き上がって、その上を2人の人物が舞っているように見えます。これは、1923年の関東大震災に想を得た作品で、雲と見えたものは煙だということです。そう聞くと、2人の人物も煙に巻かれているようにも見えてきます。その後ブロンズに鋳造されて、ここに設置されたそうです。そんな話を伺い、北村西望という彫刻家に興味が湧いてきます。
北村西望は1884生まれ、東京美術学校に彫塑科を新設した白井雨山に師事し、西洋彫刻の塑造を学びます。
若い頃の作風は、逞しく力感溢れるもので、彫刻館B館前にある、1915年第9回文展で最高賞を受けた若い男性像《怒涛》、第10回特選主席のたくましい老人像《晩鐘》、第11回文展で「推薦」を受けた上半身と手を激しく捻った《光に打たれた悪魔》にその作風はよく表れています。

 彫刻館B館には第二次世界大戦までの作品が展示されています。ロダンの影響を感じさせる男性の裸体像《若き日の苦悩》、軍人の騎馬像《寺内正毅元帥騎馬像》、手に持った長い片鎌槍と長烏帽子兜が印象的な《加藤清正公》、背中を高くして威嚇する《猫-防衛》などが見られます。

彫刻館A館には戦後に製作された作品があります。建物を入ると正面にある巨大な銀色に塗られた長崎の《平和祈念像》原型に目が釘付けになります。その右手の部屋には、裸婦が馬に乗った《婦人解放の唄》、天正遣欧少年使節の伊東マンショが馬に乗った像、畠山重忠の騎馬像、御木本真珠で知られる実業家御木本幸吉の大きな像、母親が子供を背負った母子像などが展示されていなす。西望は、若い頃から長寿を目標とすると決めていたそうで、実際102歳まで生きたのですが、その人生後半の作品のテーマの多様さがわかります。


アトリエ館は、北村西望が《平和祈念像》を制作した場所で、こんな大きな建物の中で製作をしたのだとその大きさに驚きます。中は、西望が考案した石膏を芯材に付けていく「石膏直付け法」がよく分かる《平和祈念像》1/4内部構造模型など、制作の工程がわかるような展示になっています。

大きな回転台やクレーンなども当時のまま置かれています。土方さんからは、長崎市は最初「原爆記念碑」の制作を依頼してきたが、西望は全世界の人に平和を祈ってもらいたいという思いから「平和祈念像」にすることを逆提案し、その案が採用されたというようなエピソードも伺いました。西望は巨大な像の制作の場所を探し、東京都に相談したところ、井の頭自然文化園の土地の使用を許されたそうです。そこでこの場所にアトリエを建て《平和記念像》の制作を進めました。

そこがそのまま今のアトリエ館になっています。西望は、アトリエの脇に住める場所も作り制作に励んだそうで、その住居部分もアトリエから見ることができます。西望は、土地を無償で借りる代わりに、全作品を東京都に寄付しました。そのような経緯で、井の頭自然文化園は、1人の作家の初期から晩年までの主要作品が見られる貴重な場所になっています。
今回、ちょうど「塑像+仏像―北村西望とみほとけ」という展示も行われており、西望が仏像も作っていたことが紹介されています。西望は、仏像が彫刻として評価されなかった時代にも、自らの信仰心から個人の職人仕事として小さな仏像を制作していました。また、戦後は公共彫刻としての仏像を制作しています。1975年作の《不動明王》など西洋彫刻の肉体表現などを取り込んだ西望の仏像彫刻も注目されます。

今回のアート・ラボでは、土方さんの丁寧な説明を受けて、日本の明治以降の彫刻に関して考えてみたくなる点がいくつも見つかりました。日本の彫刻家は西洋の彫刻をどのように自らのものとしていったのか。モニュメンタルな作品を作ることを期待される彫刻家は、プロフェッショナルな芸術家として、それぞれの時代の依頼者にいかに対応していったのか。そこには個人の思想はどのように反映されていたのか、あるいは個人の思想というよりも造形への関心が先行したのだろうか。

モニュメンタルな彫刻作品は、ある特定の場所に設置することにより、その役割を果たしますが、それは時代の政治的環境や社会環境の影響を大きく受けることになります。例えば戦後GHQにより多くの軍国的とみなされる作品は撤去されることになりました。作者と受容者、それを囲む社会は、極めて今日的なテーマであり続けています。平和祈念像も様々な軋轢がある中で制作が進められ、公共のモニュメントとして完成させられない場合には、西望が個人として完成させることまでも考えて制作方法が決められたというのも、興味深い話でした。

今回のフィールド・ワークを通して、今年のアート・ラボのテーマ「彫刻・立体作品」への関心もますます大きくなってきました。           (筆記 鈴木重保)

先生から何かを学んだり、イベントに参加したりという形では得られない「自分なりの学びと楽しみ」が見つけられる月1研究会ART LABO。
ぜひ、一度いらしてみてください♪ きっとそこには、楽しい仲間たちとの素敵な時間が待っていますよ♪
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