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2019年12月7日(土)レクチャー「2019年まとめ&2020年のテーマ決め」
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今回は、今年度のテーマ発表と来年のテーマ案を検討しました。 【2019年度個人テーマ】(発表順) 1.1970年大阪万博 1970年の大阪万博には当時の現代美術家が多数参加しました。国策のイベントになぜ、前衛芸術家が係わったのか・・その背景には、手本となった1967年のモントリオール万博のアート性とテーマプロデューサーに岡本太郎をアサインした丹下健三の炯眼があったからです。 1964年の東京オリンピックの成功で政府に近かった丹下がいなければ、このような形にはならなかったといった指摘や、それまで殆ど大衆と接点のなかった現代美術が5000万人もの人の目に晒され、新聞の社会面を賑わすなど、美術家にとっても新たなエポックとなったことなども報告され、興味深い内容でした。 2.「実験工房」その後〜「1968年激動の時代の芸術」展 滝口修三を中心とした総合芸術活動「実験工房」の活動停止後、体制批判的な政治活動と共鳴しつつ、カウンターカルチャーが活性化した1960年代後半の美術シーンに焦点を当てた本展に注目し、図録を中心に考察。 当時、既成概念を否定する「反芸術」「アングラ」など反体制的な活動が先鋭化する一方で、いわゆる「エスタブリッシュメント文化人」(上記丹下や黒川紀章、横尾忠則、一柳彗など)も活動していました。 彼らと結びついた大阪万博の開催、前衛芸術の終焉、政治と距離を置いた「もの派」の登場を迎える70年代前夜、まさに時代の転換点となったのが1968年だったということです。 3.1960〜80年代、モダニズムの後 『ART SINCE 図鑑1900年以降の芸術』(東京書籍、2019年)の論文より、ポストモダニズムを中心に考察。 1960年代後半に近代の評価基準が崩壊すると、絵画、彫刻、建築など分野が明確で、例えば絵画ではその「平面性」を探求すべきとしたモダニズムへのアンチテーゼとしてポスト構造主義が台頭し、脱構築が始まりました。体系内に終始したモダニズムの自律性を否定する、ポストモダニズム芸術の登場です。 その後1980年代にはポスト構造主義と新保守主義に分化するなど、その潮流は多岐にわたります。絵画は平面から解放され、ミニマルアートやコンセプチュアルアート、アースワーク、ノンサイト、アプロプリエーション、パスティーシュなど様々な概念が生まれ、美術館や作品展示のあり方も問われるようになりました。 |
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4.1960−80年代のアートシーンにおける百貨店展覧会の役割
浅野敞一郎『戦後日本美術史1945〜1990』(求龍堂、1997年)など4文献を中心に考察。 日本の百貨店は明治末以来、市民の「文化装置」として長く機能してきました。1960年代以降、副都心を中心に新たな店舗展開が進み、1975年に西武美術館が開館すると他店も追随するようになって、1980年代にかけて百貨店の美術展は活況を呈します。多くの場合、新聞社企画とのタイアップ(唯一、西武は現代美術に特化した自前企画を指向)ですが、それは公立美術館の整備の遅れなど日本の文化的後進性を背景に、新聞社が国民の知的欲求を満たす場を百貨店に求めたからです。 こうした百貨店=新聞社の展覧会モデルは日本独特のもので、欧米人の目には奇異に映るでしょう。しかし百貨店の展覧会が、美術館の補完的存在として日本人の美術的素養を格段に高めたのも、紛れもない事実なのです。 5.『絵画の復権』−ツァイトガイスト展 1982年、ベルリンで開催された「ツァイトガイスト(時代精神)展」について、その図録と国立国際美術館研究員・福元崇志の論文から考察。 福元氏は「モダニズムとは、画材というモノを意味のある画像に変換する『詐術』としての絵画を開放する運動だった」「知的洗練をストイックに追及するその傾向は、とりわけ戦後のアメリカで顕著になり、抽象表現主義、ミニマルアート、コンセプチュアルアートが登場した」といった認識を踏まえ、1970年代の10年間にもたらされた「行き先の見えない閉塞感」を指摘しています。 その上で、「アカデミックに硬直したミニマリズムときっぱり対立する」ツァイトガイストの精神が生まれ、1980年代に夢想、神話、苦悩、気品などを主題として「表現すること」「解釈すること」に再び光をあてた「ニューペインティング」が登場し、その運動自体が途絶えた後も、形を変えて今に続いていると論考しています。 それがすなわち「絵画の復権」なのでしょう。さらに、このコンテクストで福元氏がキュレーションした2018年の国立国際美術館コレクション展「80年代の時代精神から」の紹介もありました。 6.セゾン美術館の歴史と役割 永江朗『セゾン文化は何を夢見た』(朝日新聞出版、2014年)など4文献を中心に考察。 西武美術館は、「蓄積された富を作品に置き換えて展示」し、「外来の教養を礼儀正しく鑑賞する」従来の美術館に対するアンチテーゼとして「時代精神の根拠地」を標榜して1975年に開館しました(1989年にセゾン美術館に名称変更)。1999年の閉館までに242回の企画展が開催され、うち43回が単独企画です。これは殆どが「貸会場」として機能していた百貨店の中にあって、極めて異例でした。 そのほか、現代美術にフォーカスし、批評家によるキュレーションを採りいれたことや、教育普及活動に注力し、鑑賞を主体としたさまざまな教育プログラムを開発したことが挙げられます。百貨店という「販売の場」でありながら、メセナ活動を優先させ、展示を現代社会における文化的論説として位置づけることを目指していたのが西武の大きな特色です。そのほか、広告と連動した総合的デザインの生成や、メディア、文学など多彩なジャンルに着目し、まさに「時代精神」の中心としての役割を果たしたのです。 |
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7.アートにおける1960〜70年代を考える
三浦雅士編『ポストモダンを超えて 21世紀の芸術と社会を考えて』(平凡社、2016年)を中心に考察。 先駆者であるマルセル・デュシャンに始まり、抽象表現主義のジャクソン・ポロック、ポップアートの源泉となったネオダダのロバート・ラウシェンバーグ、彼と親交のあった音楽家ジョン・ケージ、ポップアートの旗手アンディ・ウォーホルなど1960〜70年代のアートシーンに影響を与えた中心人物にフォーカスし、批評家クレメント・グリーンバーグのモダンアートに関する言説も紹介しながら、従来の芸術概念が行き詰まり、さまざまな実験を行った結果、「なんでもあり」の状況となったのがこの時代であり、その後の反動を経て、「混沌の中で現在も模索が続いているのかもしれない」と論考しています。 美術以外に音楽についても考察し、ジャンルもオリジナル/コピーの概念も含め、「アート」全体の境界線があいまいになっている現代の状況にも言及されました。 【2020年度テーマ案】 来年度のテーマにつき、フリーに意見を出し合いました。 オリンピック、2000年代以降の美術、キュレーション、世論と芸術、古代の造形、異文化との出会い、新しいジャポニズム、彫刻など、さまざまな意見が出ました。わずかの時間ではありましたが、全員で協議の結果、〈彫刻と立体作品〉を軸に1月のラボで再検討することになりました。 (YS記述) 2019年のARTLABOはテーマが割とハードなところとなったこともあってか、非常に濃密なフィールドワークと個人テーマの探求の1年となりました! 2020年も、楽しく深く実りのある探求の時間にしていきたいと思います! 先生から何かを学んだり、イベントに参加したりという形では得られない「自分なりの学びと楽しみ」が見つけられる月1研究会ART LABO。 ぜひ、一度いらしてみてください♪ きっとそこには、楽しい仲間たちとの素敵な時間が待っていますよ♪ |