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2017年2月4日(土) フィールドワーク「多摩美術大学美術館」


2月最初の土曜日の朝10時、雲一つない冬の晴天の下、ART LABOのメンバーは2017年最初のフィールドワークに向かうため小田急多摩センター駅に集合しました。

目的先は多摩美術大学美術館で開催中の『生誕100年記念 染色家 岡村吉右衛門 ―祈りの徴(しる)し―』展。

この展覧会がどうして今年のART LABOのテーマ「アジア・アフリカの近現代アートを知る」とつながるのか?疑問が解けないまサンリオピューロランドのすぐそばにある美術館にうかがいました。  

 

 館内では1・2階の展示室に染色研究家(実技染色と論考)で民芸運動家でもある岡村吉右衛門(おかむらきちえもん;1916年〜2002年)の「型染め版画」作品258点が関連資料とともにびっしりと並んでいました。

一見して芹沢_介の影響が見て取れる「文字絵」、アイヌの霊的習俗に取材して制作された「蝦夷絵」、そして、青・黄・緑・白・黒の太い縦ストライプを背景に星座の輪郭が点描で象(かたちど)られた連作《十二星座》(1996年)と、岡村吉右衛門の初期から晩年までの創作活動の全体像を知ることができる展示内容でした。

入館後約30分間、駆け足で展示を鑑賞した後、展示室内で本展担当学芸員の吉田公子さんからお話をうかがいました。  

鳥取の旧家に生まれ、白樺派ファンの叔父や母の実家が経営する窯・陶磁器販売店など恵まれた芸術文化環境で育った岡村吉右衛門が、鳥取にやってきた民藝運動の主導者・柳宗悦を通じて芹沢_介の工房に入門し染色技術を習得、糊防染による型染めの技法を使った紙染めの研究につづけて、北海道(アイヌ調査)、沖縄、台湾、東南アジア、南アジア、中米、アフリカ(エチオピア、タンザニア)と精力的に国内外のフィールドワークを行い、見えないが確かに存在するものを型染め版画の創作を通じて造形化していったことをお聞きしました。  

 では、この岡村吉右衛門と多摩美術大学美術館がアジア・アフリカの近現代アートとどう関わるのか?  
きっかけは1995年に多摩美術大学附属美術館(当時)で開催された『リランガの宇宙 −精霊のアフリカン・アート−』展でした。
この展覧会は、アフリカの映画・現代美術を日本で初めて紹介したアフリカ文化研究家の白石顕二(しらいしけんじ;1946年〜2005年)氏と山本富美子氏の夫妻がアフリカの美術・工芸品を収集した「フリーダ・コレクション」(現、「多摩美術大学美術館白石顕二アフリカコレクション」)の中から、現代アフリカを代表するタンザニア出身のティンガティンガ派の作家ジョージ・リランガ(1943年〜2005年)の作品を取り上げたものでした。

以前から白石夫妻と接触のあった岡村吉右衛門は展覧会の会期末に美術館を訪れ、自らのアフリカ体験があったためかリランガの作品に強く感銘を受けました。
これに加えて、当日の会場では多摩美術大学美術館の初代館長で染織史研究の国際的な権威でもある山辺知行(やまのべともゆき)氏(1906年〜2004年)との再会も重なりました。
かねてより岡村吉右衛門の作品を高く評価していた山辺館長との出会いが、やがてこの作家の最高傑作となる《十二星座》の制作と山辺館長への献呈、多摩美術大学美術館への収蔵につながっていきます。


さて、担当学芸員の吉田さんのご説明につづくART LABOメンバーからの質問コーナーでは、アフリカ関連の展覧会における観客の反応、アフリカで制作された作品を取り扱う上での素材面での留意点、岡村吉右衛門がアフリカ体験で得たもの(特に色彩について)と、アフリカ芸術の展覧会を繰り返し開催しているこの美術館に関してならではの質問が出てきました。  

 

これらの質問に対するお答えとして、日本における一般的なアフリカのイメージは欧米経由で入って来たものであり、飢餓・貧困・病気とは違った現代アフリカの現実を紹介する展覧会の展示に対して、知っている人はもっと深く知りたい、知らなかった人は初めての認識に驚くといった反応を示すこと、アフリカでは現地で手に入り易い木板とエナメル(ペンキ)で絵画を制作するため、日本では特に湿度に注意が必要であること、色彩のグラデーションを特徴とするアフリカ現代絵画を観た岡村吉右衛門が自らの作品の色彩では日本の着物の意匠にも通じるストライプで表現を行っていることなど、この美術館を訪ねなければ知ることができない貴重なお話をお聞きすることができました。

ご説明と質疑応答を通じて、世界的にも他に類を見ないアフリカ美術・工芸コレクションを有し、これから創作活動に携わっていく若い人たちや専門家でない一般の人たちに向けてまだメジャーになっていない作家の作品を紹介するという、美術大学付属の美術館だからこそ可能となる収集基準や展示方針に基づき、他の美術館では果たせない使命を意識した活動が行われていることに、私は深い印象を覚えました。  

観客動員に重きを置くマスコミ後援の展覧会では目にすることの難しいアジア・アフリカの現代美術をあえてテーマに選んだ2017年のART LABO。今年の活動を進めていこうとする最初の一歩として、知られざるコレクションや作家の存在とそれらを紹介する展示活動を行っている美術館に目を向ける機会となった今回のフィールドワークは、必ずやメンバーにとって豊かな糧となるにちがいありません。

先生から何かを学んだり、イベントに参加したりという形では絶対に得られない「自分なりの学びと楽しみ」が見つけられる月1研究会ART LABO。
ぜひ、一度来てみてください♪ きっとそこには、楽しい仲間たちとの素敵な時間が待っていますよ♪
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