• トップ
  • 会員案内
  • サークル概要
  • 認定講師制度
  • 資料請求

イベント案内

過去のART LABO
ART TRANSIT TOP > イベント案内 > レギュラーイベント > ART LABO > 過去のART LABO

2021年12月4日(土)ディスカッション「2021年のまとめ発表と2022年度テーマ決定!」


今回は、各メンバーが取り組んできた今年度の個人テーマの発表と、来年度の全体テーマを検討しました。

【2021年度個人テーマ】(発表順)
 1.メディア・アート     
はじめにモダニズムからポストモダニズムの転換点に生まれたメディア・アートの成立について解説。その特徴は「インタラクティブ性」「コンピューターの活用」「映画(視点の移動)やTVの活用」「企業との連携」など多岐にわたっています。事例として取り上げたのは三上晴子《Molecular Informatics Premere Ver.1.0》(1996)。観客が視線追跡センサーつきのVRグラスをかけ、作品に参加するインスタレーションで、その動画を全員で興味深く鑑賞しました。この時代にすでにこんな作品が展示されていたんですね!
2.写真の技法〜フォトグラム
タゲールによるタゲレオタイプやタルボットのフォトジェニック・ドローイングによって写真術の歴史が始まり、その後のカロタイプ、ネガ・ポジ法・・と近代の写真技法は発展してゆきます。
その中で当時、とりわけ異彩を放っていたのが、カメラを用いずに印画紙上に物体を直接置いてそのカタチを感光させる「フォトグラム」ではないでしょうか。
1920年代にラースロー・モホリ=ナジらが始め、その後日本では瑛九が「フォト・デッサン」として多数の作品を残しました。近年は放射線を使った加賀谷雅道の「オートラジオグラフィー」作品や、今年、杉本博司が京都の建仁寺の襖絵として制作した《放電場》(人工的に発生させた稲妻による作品)など、現代美術にも取り入れられています。  
3.「美術作品としての写真」を考える
1960年代まで日本における写真の受容は、印刷媒体が主流で、写真家が焼いたプリントは印刷が済めば廃棄になっていたそうですが、1979年日本写真美術館設立促進委員会が文化庁に「写真美術館の設立要望書」を提出したことが端緒となって、川崎市市民ミュージアム(88)、横浜美術館(89)、東京都写真美術館(90)といった写真専門美術館(部門)が開館するなど、制度面の整備に伴うかたちでフォト・アートに対する社会の受容マインドが変化したと言えます。
この重要な転換点となったのが、これらの美術館設立に先立つ1985年、つくば科学万博にあわせて期間限定で開館した「つくば写真美術館」といえるでしょう。
このときの企画展「パリ・ニューヨーク・東京」は石原悦郎、伊藤俊治、横江文憲、平木収、金子隆一、飯沢耕太郎、谷口雅によって企画・運営されています。当時まだ20〜30代だった彼らは、いずれもその後の日本のフォトシーンを支える重要人物でした。


4.杉本博司の作品      バイオグラフィーに沿って、「ジオラマ」「ポートレート」「劇場」「陰影礼讃」「海景」「建築」「Lightning Fields」「OPTICS」といった数々のシリーズの代表作を供覧しながら、それぞれのポイントを解説。作品が誕生する背景なども興味深かったです。さらに古美術商からスタートした経歴、「江之浦測候所」や上記「フォトグラム」の発表でも言及された建仁寺の襖絵など最近の仕事、2017年の文化功労者受賞の挨拶で物議をかもした「国威発揚」発言の紹介もあり、海外に拠点を置きつつ「日本」をまなざす、独自の視点について考えさせられました。   5. アンドレアス・グルスキーとベッヒャー派  2014年、クリスティーズのオークションで《ライン川U》が当時の写真作品の最高落札額(約3億4千万円)を記録したドイツの写真家、アンドレアス・グルスキー。本作をはじめ、《99セント》《東京証券取引所》《カミオカンデ》など、グルスキー作品には畏怖や崇高、消費社会等のテーマ性に加え、「巨大な画面」「形態の反復」「作家の意思を反映させた編集」といった特徴がみられます。1970年代にいち早く「アートとしての写真」に取り組んだ(ベルント&ヒラ)ベッヒャー夫妻は、タイポロジー(類型学)の手法により何枚もの写真をグリッド状に配し、巨大な一枚のタブローのように展示することで知られていますが、グルスキーは夫妻の「ベッヒャースクール」出身で、カンディダ・へーファー、トーマス・シュトルートやトーマス・ルフらと並んでベッヒャー派の一人とされています。現代のアートマーケットを席捲するグルスキー作品。そのサイズ感や形態反復といった表現方法にベッヒャーの影響をみることができます。
6.グレゴリー・コルベール  
2007年にお台場のノマディック美術館で行われた「Ashes and Snow」展を中心にコルベール作品の魅力を提示。展覧会は2007年3月から6月の3カ月間、青海東臨海駐車場に設置された阿波和紙を多用した特設会場で行われました。コルベール自身が空間設計を含めプロデュースしたそうで、見た人が自由に感じてほしいという作家の意図を反映するように、作品には一切キャプションがなく、「人間と動物が共存する誌的な感性を探る」という作品コンセプトどおりの展示構成となっていました。
「かつて人間が動物と平和に共存していた頃の、共通の土台」の再発見を目指したコルベールはまた、(上記グルスキーとは正反対に)画像に一切手を加えないことをモットーにしていたため、自身を被写体とした水中写真を撮るにあたって、相当の時間をかけて体づくりをしたという逸話の紹介もありました。  

7.マイナー・ホワイトとモダニズム
自己の精神性をストレートフォトで表現した米国の写真家、マイナー・ホワイトの作品を軸に、モダニズムの系譜、日本における類似表現などについて解説。禅や神秘主義を感じさせるホワイト作品の源流は、それまでのピクトリアリズム(絵画主義)から脱却し、ストレートフォトを提唱して写真の芸術性を広めたモダニズムの中心的存在、アルフレッド・スティーグリッツです。
とりわけ雲を撮った《Equivalent》は自己の内面との同等性を表現した作品で、当時まだ若かったホワイトに決定的な影響を与えました。
時を同じくしてドイツでも起こったモダニズムの潮流は、モホリ=ナジらのバウハウスによって体系化され、日本の写真家にも多大な影響を与えます(新興写真運動)。その後、バウハウスの流れをくむThe Institute of Designがシカゴに設立されると、ホワイトの教え子アーロン・シスキンドが教授となります。こうした流れの中、日本でも「リアルフォト」の安井仲治やシスキンドに学んだ石元泰博の作品にストレートフォトの影響がみられます。
8.日本の若手写真家10人  
今年、さまざまなギャラリーで出会った「推し」の若手(1980年以降生まれ)写真家10人を紹介。
@米国に暮らすフリーダンサー(小栗麻由)を撮り続ける市田小百合 
A無名の市民の写真(ファウンドフォト)を素材に制作する小池健輔 
B写真を重ねて彫りだし立体作品とするNerhol(飯田竜太と田中義久のデュオ) 
Cプリントした写真に穴をあけ、光が漏れる様子をさらに撮影する澄毅(すみたけし) 
D「夜景写真」の先駆者・岩崎拓哉 
E中国にルーツをもち、監視社会や人権など社会的テーマで制作するリュウ・イカ  
F多様なバックグラウンドの女性に同じ服を着せて撮影する坂東美音(さかとうみおん)
G自身の心の琴線にふれる多様なイメージを表現する赤鹿摩耶(あかしかまや) 
Hサーモグラフィーを使った作品により、既に米国でよく知られている平澤賢治 
I出産までの妻の写真を撮影した日の新聞紙にプリントする寺田哲史(てらださとし)の10人です。
いずれもそれぞれに魅力的な写真家。発表者のイチオシはEでしたが、筆者はF。こんなふうに現代写真を楽しむのもいいですね。  

 9.「映像」について  
自分のカメラで実際に訪問した美術館やギャラリーで撮影したさまざまな写真を供覧しながら、私たちが日常的に目にしている「映像」について考察。「映像」の語義を調べると、
@光線の屈折または反射によってつくられた「像」
A写真、映画やテレビの画面に映し出された「画像」
B心の中に一つのまとまった姿として描き出された「イメージ」(心象)となっています。
発表者は今年10月、水戸のARTS ISOZAKIで見た《多軟面体》という作品に既視感を感じました。(どこで見たんだろう・・)その疑問はギャラリーの方と話すうちに氷解します。2016年の茨城県北芸術祭で訪れた「穂積家住宅」屋外インスタレーション敷き詰められていたものと同じ造形だったのです。作家は伊藤公象さん。
話を聴く私たちは、提示されたそれぞれの画像を共有することで、発表者の既視感を追体験します。 「映像」は、時間と空間を隔てた記憶を、人と人とを繋げる機能を持っている・・そんなことを考えさせられました。
10.秋岡美帆《ゆれるかげ》−不可視の世界−  
秋岡美帆の作品は写真なのか絵画なのか・・そのジャンルを特定することが難しい作家です。
秋岡は撮影した画像をスキャナーで読み取り、吹き付け方式(NECOプリント)で印刷することで作品を制作しています。写真撮影にあたっては、人間の視覚生理に着目し、流し撮り、多重露光、スローシャッターの技法を駆使して「中心視野」と「周辺視野」を同等に扱うことでブレを重ね、敢えて色彩や輪郭を曖昧にします。
写真であって、同時に現実の空間とは別の背景を持った抽象的な絵画世界。不可視の世界を現出しようとするその画面は、私たちに他の写真と一線を画す独自の芸術性を感じさせてくれます。
彼女の作品は多くの美術館に収蔵されていますが、収蔵分野は美術館によって写真ではなく版画、油彩その他などさまざまであることも秋岡作品の独自性を物語っています。    

【2022年度のテーマ検討】 来年度のテーマを検討しました。前回のラボで「アフターコロナのアート」「ジェンダーとアート」「作品のオリジナリティ」などいくつかの方向性が示されましたが、ひきつづきフリーに意見を出し合いました。「環境」「多様性」「社会制度」「教育」「アートマーケット」等のキーワードがあがり、全員で協議した結果、2022年度の全体テーマを〈社会環境とアート〉とすることとなりました。  
                                             (YS記) 

先生から何かを学んだり、イベントに参加したりという形では得られない「自分なりの学びと楽しみ」が見つけられる月1研究会ART LABO。
ぜひ、一度いらしてみてください♪ きっとそこには、楽しい仲間たちとの素敵な時間が待っていますよ♪
過去のART LABO一覧に戻る
PAGETOP