• トップ
  • 会員案内
  • サークル概要
  • 認定講師制度
  • 資料請求

イベント案内

過去のART LABO
ART TRANSIT TOP > イベント案内 > レギュラーイベント > ART LABO > 過去のART LABO

2021年6月5日(土)フィールドワーク「東日本橋エリアのギャラリー探訪」


緊急事態宣言下ではありますが、殆どクローズだった都内の美術館も今月から再開され、アートファンの皆さんは、残された会期を睨みながら展覧会に足を運ばれているのではないでしょうか。
ART LABOも久々のフィールドワークです。
今回は東日本橋にある2つのギャラリーを訪問しました。かつて日本一の問屋街として賑わったものの、繊維不況の影響で空きビルが増えたこのエリアは、近年さまざまなジャンルのアートギャラリーが集まり、「日本橋界隈ギャラリーマップ」が作られるほどの活況を呈しています。  
メンバーの期待を反映するようにほぼ全員が集合し、まず向かったのは小さなビルの4階にある「TAKU SOMETANI GALLERY」です。オーナーは染谷琢さん。
2018年の開廊以来、ユニークな表現を持つ日本の若手作家を中心に、幅広いジャンルの作品を国内外に向け広く紹介する、アートフェア東京にも出展しているギャラリーです。

ちょうどこの日は、福嶋幸平さんの個展「Recomposition」初日。
福嶋さんは1989年東京都生まれ。横浜美術大学を卒業し、自然そのものを山水画の構図に倣って撮影してきた一方で、近年はテクノロジーが生みだす環境の変化を「風景写真」として提示しています。
2017年には「第20回 岡本太郎現代芸術賞」、「第6回 都美セレクション」入選のほか、「横浜美術大学学長表彰」優秀賞を受賞するなど、既に各方面から高く評価されている気鋭の作家です。オープン直前の貴重なお時間を頂戴し、福嶋さんからお話を伺いました。
今回の個展では「maps」「extend scape」「street」という3シリーズが展示されていますが、制作手法の原点となったのは2014年に発表した「maps」です。
地図アプリケーションのストリートビューで、バグが生じた瞬間を切り取って写真にした作品です。
風景の中に流れるように現れる無機質の造形。しかしそれは、もともと風景の一部なのです。
福嶋さんはテクノロジーによって既存の風景が崩れてゆくさまが、現代における新たな風景写真の表現ではないかと考えたそうです。
このバグは、普段、私たちも地図アプリケーション操作時にしばしば目にするものですが、こうして作品として見ると、とても美しく感じます。

一方、「extend scape」「street」は今年(2021年)の最新作です。この間に7年が経過し、テクノロジーの進化によって地図アプリケーションの機能が2Dから3Dとヴァージョンアップするのに伴い、バグの出方も変化しました。福嶋さんはもともと平面のバグを求めていたのですが、今や同様の素材が得られなくなってしまいました。
何とか再現できないか・・さまざまな試行を繰り返す中で生まれたのが最新作です。
「extend scape」は、西新宿の街並みを何周も繰り返し、得られた異なるバグの出方を1枚の写真に構成することで、新しい風景をつくり出しています。繰り返すことでそこに生じた複合的な現象が落とし込まれていて、「異時同図法」的な面白さもあります。
「street」はアプリケーション上で福嶋さん自身が操作するマウスの軌道(クリックやドラッグ)をトレースし、シルクスクリーンで写真の上に重ねた作品です。
長い時間の中の一瞬を切り取るのが写真の一側面であるとすれば、マウスの軌道を表現することは「時間を可視化する」一つの方法として有効と考えたそうです。
既存の風景の上から落書きする「グラフィティ」のような面白さもあります。マウスの軌道が白で描かれているのは、風景に紛れ込ませるのではなく、「レイヤーを出したかったから」ということです。 2010年代以降、自分も含め、身の回りの対称からwebの向こう側の広い世界に着目した写真作品が同時多発的に生まれてきた背景には、写真を現代美術の文脈で提示した杉本博司さんの存在が大きかったと振り返る福嶋さん。
初期の「山水」シリーズの頃から撮影した写真をインスタレーション的に展示するなど、空間から作品の展示構成を考えるスタンスで制作を続けてきました。
「絵画では、ある程度作家が意図したものを描くが、写真には偶然性の側面があって、コントロールできないことの面白さがある」とも語ってくれました。
可動壁を効果的に使った空間構成によって、「maps」に始まる3つのシリーズを配置した今回の個展には、そんな福嶋さんの「いま」に繋がる7年間のストーリーが込められているのです。


気づけば充実した時間があっという間に過ぎ、移動する時間です。

盛会をお祈りしつつ、染谷さんと福嶋さんに感謝! 

 

頂戴した「日本橋界隈ギャラリーマップ」を片手に次に向かったのは、小伝馬町の「Roonee 247 Fine Arts」です。徒歩で5分ほどですが、確かにギャラリーが多い!銀座などに比べ賃料が手ごろでアクセスしやすいのがこのエリアの魅力とか。

 

Roonee 247 Fine Arts」もビルの4階にあります。明るくてとてもいい雰囲気。中に入るとスタッフさんがフレンドリーに声をかけてくれます。

この日は保科宗玄さんの「曳舟好日」と南條美恵さんの「仕事場」の会期中でしたが、まだオープン前ということで、オーナーの篠原俊之さんにギャラリーのコンセプトなどについてお話を伺いました。

もともと2004年に四谷で写真専門のギャラリーとしてスタートしましたが、姉妹ギャラリーのクロスロードギャラリー開設(2011年)などジャンルを広げるなか、2017年に両者を統合するかたちでこちらに移転し、現在は写真を中心(約50%)に版画やドローイング、立体、クラフトなど幅広い作品を扱っています。
企画展を年間12~3本、それ以外は貸しスペースとして殆ど切れ目なく(休廊は年に一週間ぐらいとか)展示を行っているそうです。
展示スペースは2つありますが、仕切りは可動式で、ビッグネームから若手作家まで展覧会の内容によって、通し使いや、各スペースの大きさをアレンジすることも可能です。
「作家たちの伴走者」を自認する篠原さんが旨としているのは、コミュニケーション。企画展は自ら足を運び、作家と向き合いながら時間をかけて準備するので、3年越しということもあるようです。
作家からの持ち込み企画についても十分話し合うので、貸しスペースの場合でも殆ど「相思相愛」の展示になるとのことです。作品に向き合った時の「何だこれは!」を大切にしている篠原さん。
いくら時間が経っても自分の中に何かが残ること。「そのことで作家との距離が縮まる」「いい作品が世に残るとはそういうこと」というステキなお話しも伺いました。


もうひとつ特筆すべきは、額縁貸与システムです。作品を見る側の私たちには見えにくい部分ですが、作家にとって額縁の調達は看過できない課題のようです。
当ギャラリーでは、さまざまなタイプ/サイズの額縁を展示内容、額装方法に合わせて作家に貸し出しています。
とりわけ写真の展示では必要となる額縁も膨大で、かつて自作を展示するにあたって、額縁が手配できずに大変な思いをしたご自身の苦い経験からこのシステムを始めたそうです。
現在は写真を使って表現する作家さんに向けたアルミフレームタイプが多いのですが、近々、ドローイングに使える桜材の額縁も揃えるとか。額装にあたって重要なのは、額の「枠」に作品を嵌めるのではなく、作品から額を発想することとお聞きしました。
そんな篠原さんのお話を伺ううちに、作家さんも来廊されました。保科さんの「曳舟好日」は、東京・曳舟にくらす4世代、16年間の家族の歴史を追った作品です。
南條さんの「仕事場」は嫁ぎ先の町工場の機械油のにおいが漂ってくるような空間や、様々なモノをモチーフとした作品です。
いずれも市井の日々のくらしに対する優しい眼差しが感じられます。お二人は中学校の同級生。何人かのメンバーは南條さんの女性ならではの視点と印象的な色彩の妙に魅了されていましたが、保科さんのアドバイスで写真を始めた彼女の経歴はまださほど長くないそうで、何と今回が初個展ということでした。
こんな繋がりが生まれるのも当ギャラリーのステキなところです。
そのほか、さまざまな作品集を閲覧できるブックスペースや、毎月お薦めの作家を作品と関連書籍で立体的に紹介するリコメンドウォールを備えた「ビュースペース」があるのも魅力です。フラッと立ち寄って楽しめるギャラリー。

通常のイメージとはひと味違う、まさに街のアートセンターです。こうして来場者とのコミュニケーションを大切にしているのも「Roonee 247 Fine Arts」の特徴です。冒頭ご紹介したようなフレンドリーな声かけもその一環なんですね。

こちらでも濃密な時間を過ごしたメンバーたち。名残り惜しいですが、今日はタイムアップ。
後ろ髪を引かれながら、ここで解散となりました。久しぶりにまとまってアートを楽しんだ、とても充実した2時間でした。
次のフィールドワークに期待が高まります!  

参考: TAKU SOMETANI GALLERYホームページ https://takusometani.com/
福嶋幸平オフィシャルサイト http://koheifukushima.com/
Roonee 247 Fine Artsホームページ https://www.roonee.jp/about/                 (YS記)

先生から何かを学んだり、イベントに参加したりという形では得られない「自分なりの学びと楽しみ」が見つけられる月1研究会ART LABO。
ぜひ、一度いらしてみてください♪ きっとそこには、楽しい仲間たちとの素敵な時間が待っていますよ♪
過去のART LABO一覧に戻る
PAGETOP